江部賢一ファンクラブ(私設)

ギターの名編曲者、江部賢一さんの仕事を、記録します。

武満徹 ギターのための12の歌 (荘村清志さんのインタビュー)

武満徹 ギターのための12の歌」(2021/4/5記事)に関連して、荘村清志さんのインタビューを引用します。

 

 

『現代ギター』1999年5月号 「濱田滋郎対談(62)」荘村清志

[前略/30周年記念コンサートの話から、経歴の紹介]

 

濱田:武満さんは、まあもともとギターはお好きだったんでしょうけれども、初めて  そのことを明るみに出されたのは荘村さんですよね。

荘村

いえ、そんなこともないですけど⋯

濱田:曲を頼みにいらしたんですか?

荘村

そうなんです。お願いしに行ったのは1973年ですね⋯「ノヴェンバー・ステップス」で武満さんが世界中で一躍脚光を浴びられたあとです。当時、日本のギター作品はかなり少なかったものですから、なんとしてでも武満さんに作ってもらえたらと思って、こちらから、全然紹介もなしに⋯

濱田:突然行かれたんですか。

荘村

もちろん電話はしましたけど(笑)。そうしたら快く⋯作るとはもちろんおっしゃいませんが⋯遊びにいらっしゃい、と言っていただいて⋯

それで楽器を持って先生のところに何回か行っているうちに、「作れそうな気がしてきた」とおっしゃってくださったんですよね。

今考えれば、よく書いてくれたなあ、と⋯こっちは全然無名なのに。

濱田:武満さんは、ご自分でギターを持ってらっしゃいましたか。

荘村

河野さんの楽器を持ってらっしゃいました。で、室内楽はすでに書かれてたんですけど、まったくの独奏曲はなかったんですね。ソロの曲をなんとしてでも書いてほしいと思ったものですから、お願いしにいったんです。

濱田:そうしたらあんな素晴らしい曲「フォリオス」ができてしまったんですからねえ⋯

 

[中略/「フォリオス」に引用されている「マタイ受難曲」に関する話が続く]

 

濱田:最初にいらしたとき、武満さんの前で演奏はなさったんですか?

荘村

はい。ヴィラ=ロボスの曲とかバリオスの曲とか、そういう類のオリジナルのギター作品を弾きました。おもしろい曲あるね、と言いながら、すごく喜んでおられましたね。そのあと親しくなってから、飲みに行ったりするじゃないですか、新宿の酒場か何かに(笑)。そこに楽器が置いてあると「バリオスの〈郷愁のショーロ〉、あれが好きだから弾いてよ」と⋯。それでこっちは半分酔っぱらってて、〈郷愁のショーロ〉は結構むずかしいのに弾かされて(笑)。人が集まった場で「ちょっと1曲弾いてよ」ということもよくありました。だから、ギターはすごくお好きだったんですね。

濱田:「フォリオス」のあとが「12の歌」?

荘村:そうですね。あれはたまたま僕がレコーディングをしていて、休憩中に武満さんが編曲された「オーバー・ザ・レインボー」を弾いてたら、ディレクターの方がそれを聴いて、「その類のものをもっと何曲か集めてLPを作りませんか」ということになって、そこから始まったんです。武満さんもご自分の好きなメロディーをピアノで弾くのがお好きでしたから、軽井沢に閉じこもって作曲しているあいだ、ちょっと息抜きにそういうメロディーを集めた、という感じだったんでしょうね。

濱田:そのあとにまた1曲、荘村さんのために書かれましたよね。

荘村

「エキノクス」ですね。あれはデビュー25周年のために作っていただいたんです。記念リサイタルの10か月ぐらい前に電話してお願いしたら、最初ちょっと無理だとおっしゃったんです。ものすごくお忙しかったんですね。でもすぐ折り返し電話がかかってきて、「もし万が一できたら弾いてください、でもできなかったら申しわけない」とおっしゃるんです。「もちろんそれでいいです」とお答えしておいたら、それから3か月ぐらいして楽譜と手紙が送られてきて⋯⋯「荘村のおかげでギターという楽器との深い縁ができた、その感謝の印として、あなたにギフトとして差し上げます」というような謙虚な言葉が書かれてあったんです。

(中略)

その後病気になられて、何回かお見舞いに行ってたんですけれども、ある日ハガキが届いて、「退院したら荘村のためにギター曲を書くよ」と書いてあって、それでまたびっくりしたんですね。半信半疑だったんですけど、その年の11月に「できたから」という電話が軽井沢からかかってきて⋯⋯それで武満さんに会いにいったら「森のなかで」という曲ができてたんです。そのときは、「久しぶりに酒を飲んだよ」と言っていらして、お元気そうだったんですけど⋯⋯

濱田:それは、亡くなる前の年ですか。

荘村

亡くなる3か月前です。

濱田:そうですか。あれは武満さんがご自分から書いてくださった曲なんですねえ⋯

荘村

ええ。だからやっぱり、演奏するときに、特別な想いというのがありますね。

 

 

 

『現代ギター』2020年11月号 荘村清志インタビュー

聴き手武満徹さんからいつも、「郷愁のショーロ」を弾いて欲しいとリクエストされたと伺っています。

荘村

そう、武満さんは、この曲がすごく好きだったんです。何かあるとすぐ、この曲を弾いてくれって言われる。一緒にお酒を飲んでいる時でもね。いつも「郷愁のショーロ」でした。ある時も、井上陽水さんと小室等さんが来るから遊びにおいでよと誘われて、武満さんのお宅にお伺いしたら、本当に陽水さんと小室さんがいらっしゃって、家に着くなり、「荘村、いっちょう、アレやってくれ」と(笑)。

聴き手:荘村さんにとっても想い入れの深い曲なのですね。

荘村

武満さんがギター曲の中でこの曲が一番好きだったのは間違いないですね。私自身もバリオス作品の中でも一番の名曲だと思っています。

 

 

こちらのインタビューでも、当時のことを話しています。

www.b-academy.jp

 

 

「郷愁のショーロ」(バリオス) ジュディカエル・ペロワの演奏

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「郷愁のショーロ」(バリオス) ジョン・ウィリアムズの演奏

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