江部賢一ファンクラブ(私設)

ギターの名編曲者、江部賢一さんの仕事を、記録します。

武満徹 不良少年⑤ 「夏の花」

f:id:ebe-kenfan:20210403030055j:plain
f:id:ebe-kenfan:20210403030109j:plain
ギター映画音楽名曲集 1961

番外編で武満徹を取り上げています。

 

『ギター映画音楽名曲集』は浜坂福夫編著、国際楽譜出版社の発行(1961年)。

副題は「日本/外国における」。

 

映画『不良少年』主題曲「夏の花」が掲載されています(三重奏版)。

映画の公開は、昭和36年(1961年)3月29日。巻頭の言葉の日付は4月なので、初期の楽譜です。

 

武満さんの言葉と、浜坂さんの注があります。

 

「夏の花」

作曲者の言葉

曲の構造が簡単ですから、それ丈けに反って音を大切にして欲しいと思います。

 

ギターの為に書かれた、日本では珍しいオリジナルです。作曲者武満さんは非常にギターの研究を深くされて居り、タールレガを特に好きな由です。

音の一見簡単と思われる楽譜でも、これが一度演奏されると、非常に複雑であり、又、今迄の古曲、ローマンのギター曲に無かった、独特のユニークなものでいっぱいです。

作曲者の希望の如く、宝石の様な一音一音を大切に弾いて下さい。(後略)

 

付記として、第一ギター:浜坂福夫、第二ギター:秋山実、第三ギター:舟山幸一とあります。レコードは、キングレコード No.EB485。

 

f:id:ebe-kenfan:20210613041201j:plain

 

ショット社『武満徹:ギター重奏曲集』のサンプルページと比較したところ、ほぼ同じでした。一か所違うのは、2小節目の1st ギターが C で始まっていること。これは E の誤記と考えられます。 

 

林光さんの話に、「不良少年」はギターのソロだったはず、とありました。

元の楽譜があるかどうかは不明です。

単純に考えると、書いた楽譜がソロでは演奏困難だったため、音の構成を変えずに3つのパートに分けたのでは。

三重奏ですが、同時発音は6音までになっていることが、その理由です。

 

 

参考に、この曲集の収録曲を記しておきます。

 

夏の花 (武満徹) 『不良少年』より[三重奏]

危険な英雄 (芥川也寸志) 『危険な英雄』より[二重奏]

入江のたより (アルベニス) 『太陽の季節』より

特ダネを逃がすな!! (冨田勲) 『特ダネを逃がすな!!』より[二重奏]

オルフェの唄 (ボンファ) 『黒いオルフェ』より

死ぬ程愛して (ルスティケッリ) 『刑事』より

永遠の愛によせて (ショパン) 『愛情物語』より

いるかに乗った少年 (フリードホーファー) 『島の女』より

ジャニー・ギター (ヤング) 『大砂塵』より

太陽がいっぱい (ニーノ・ロータ) 『太陽がいっぱい』より

河は呼んでいる (ベアール) 『河は呼んでいる』より

殺し屋のテーマ (ボトキン) 『契約による殺人』より

皆殺しの歌 (メキシコ民謡) 『リオ・ブラボー』より

鉄道員  『鉄道員』より

イン・ザ・ムード (ガーランド) 『グレンミラー物語』より

旅情  『旅情』より

第三の男  『第三の男』より[二重奏]

セント・ルイス・ブルース  『セント・ルイス・ブルース』より

アナスタシア (ニューマン) 『追想』より

愛のロマンス  『禁じられた遊び』より

 

危険な英雄」(芥川也寸志)の注は次の通り。

『第三の男』が封切られて非常にその音楽が好評であった。直後にそれ以上の作曲、と云われた、芥川也寸志氏のギターの為のオリジナル作品です。映画全編を通して、2本のギターだけで演奏しました。第一ギター筆者・第2ギター舟山幸一氏。

 

 

巻頭の言葉を引用します。言葉遣いは、少し直しました。

此の曲集を演奏して下さる皆様へ

禁じられた遊び』『第三の男』等によって、ギターを主にした映画音楽が、世界中に一種の流行をもたらした、といっても過言ではないでしょう。

此の唯一個の、外見上非常に「シンプル」な楽器の持つ 、独特な魅力に、引っぱりこまれてしまった、数多くの作曲家が、ソロからトリオ位迄の、ギターだけでの作曲を色々試みて来ました。またこれからも、一度此のギターの魅力の「とりこ」になってしまった沢山の人によって、あく事なくギター音楽は追求されて行く事でしょう。

時を前後して、日本の若い作曲家のグループも、各々意欲的な作品を発表して来ましたが、一般的に余り知られていません。また、日本映画音楽の半ば宿命的なものの例にもれず、封切られて瞬時にして、もう忘れられてしまった、と云うのが残念ながら真実です。

今度、国際楽譜出版社によって「ギターに依る映画音楽名曲集」発行のお話(が)あった際に、編集の方々(と)色々相談して、許される限りにおいて、日本映画のものも、とりあげてみました。これからも、出来るだけ日本映画音楽から、後に残る作品をとりあげたいと思って居ります。

筆者

 

演奏上の諸点

オリジナルで、ギターソロのものは問題ありません。音楽的な点で、ギター演奏に向くものの中から数十曲このアルバムに集めました。 サブタイトルの、演奏会用、ということを常に考えながらアレンジしました。どの曲においても軽音楽的に、ということもその一つ。

また、イントロ、エンディング等にカデンツァソロを作り、曲にニュアンスをつけたり、メロディーを二度目三度目はフェイクしてジャズ的手法を使ったり(しました)。一歩今迄の単純なギターソロから、面白くて音楽的に前進したものを作るべく努力しました。此の行き方が、皆様の心の琴線に触れてくれたら、こんな嬉しいことはありません。(後略)

(昭和)36年(1961年)4月

浜坂福夫

 

 曲目を追加して、改訂版が出版されているようです。