番外編で武満徹を取り上げています。「不良少年」について。
ギター曲として、よく演奏される「不良少年」ですが、もとは映画音楽です。
『不良少年』
実際に非行経験のある素人の少年たちを使い、東京の繁華街や鑑別所や少年院での姿を描いた劇映画第1作。ドキュメンタリーの手法を用いた新たな作風は、多くの映画人に衝撃を与え、同年、黒澤明の『用心棒』や木下惠介の『永遠の人』などを抑えてキネマ旬報ベストテン第1位となった。羽仁の名を不動にした代表作。
1960年/岩波映画製作所/白黒/89分
この資料では、1960年となっていますが、公開されたのは1961年のようです。
『SONGS』の「〇と△のうた」 も、この映画の挿入歌です。
現代ギター社の解説は、次の通り。
「不良少年」は、映画『不良少年』(1961年、監督:羽仁 進)の主題曲。
1969年に「夏の花」というタイトルで演奏会作品としてまとめられたが、1987年演奏会初演(佐藤紀雄、小川和隆、渡部正行)の際に、武満の意向により「不良少年」に改題。
『武満 徹:ギター重奏曲集』
不良少年(3G)、素晴らしい悪女(3G)、ヒロシマという名の少年(2G)
『武満徹・音楽創造への旅』(立花隆 文藝春秋 2016年)にも、「不良少年」に関する記述があります。演奏ではなく、監督との意見の違いについてのものです。
抜粋を引用します。
立花 「不良少年」は、ギターのつま弾きがすごく印象的な音楽でしたね。
武満
あれはまた大変だったんです。最初に書いた音楽は別にあったんです。それをみんなボツにしてしまった。(中略)
(スタッフ全員で票決を取ったが、羽仁監督だけ反対で保留になった。)
結局、全部駄目で『書き直してください。この音楽は、私の映画が意図していることとまるで違う』というわけです。それでぼくもカッとなって、『あんたみたいな自由学園出のわがままなおぼっちゃんとはもう一緒に仕事したくないから、やめる』といって、大ゲンカになった。そうしたら(土本)助監督が、まあまあといって間に入って、(中略)『羽仁さんという人はああいう人なんだから、まあそう怒らないでください。今日は新宿のトトヤでひと晩飲んで、ゆっくり話をしましょう』といって、三人でその日は飲み明かして、最後どっかの旅館かなんかで川の字になって寝て、いろんな話をしたわけです。(中略)
あの映画は、よく知られているように、福山の少年院で全部ロケして作った、フィクションとはいうけど、半分ドキュメンタリーみたいな作品です。それにぼくは、弦楽を使って非常に暗い音楽をつけたわけです。(全体としては暗い話なので)その暗さを基調にして音楽をつけた。
しかし羽仁さんにいわせると(中略)映画は、全体の基調で(音楽を)つけてはいけない。シーンでつけるもんだ。そして、一つ一つのシーンでは、不良少年なんてみんな明るくやってるんだから、もっとノホホンとした音楽が欲しいというわけです。それはぼくもなるほどなと思った。それで書き直したんです。
前に書いた音楽と、書き直した音楽を聞きくらべてみたら、これはもう完全に羽仁さんのほうが正しかった。書き直したほうの音楽は、ふだんの自分からは、全然出てこないような音楽なんです。それは、羽仁さんというぼくがそれまで全く知らなかったタイプの個性とぼくがぶつかることで、ぼくから引き出された、自分でも知らなかった一面なんですね。こういうことがあるから映画の仕事は面白いんです。
「不良少年」サウンドトラック
(2021/6/23追記)
何度も引用した『武満徹・音楽創造への旅』ですが、著者の立花隆さんが亡くなったことが公表されました。4月30日に80歳で亡くなったそうです。
ジャーナリスト・作家 立花隆さん死去 幅広いテーマ取材 | おくやみ | NHKニュース