江部賢一ファンクラブ(私設)

ギターの名編曲者、江部賢一さんの仕事を、記録します。

武満徹 不良少年④(林光)

番外編で武満徹を取り上げています。「不良少年」について。

 

『現代ギター』2016年10月号「レパートリー充実講座 不良少年」(柴田健) には、サウンドトラックのライナーノートに、「林光指揮のギター三重奏(浜坂福夫、秋山実、舟山幸一)」と紹介されている、とあります。

 

武満徹全集』の書誌情報で、「林光指揮」が確認できました。

 

武満徹を語る15の証言』小学館(2007年)に、林光さんの証言があります。

聞き手は大原哲夫さん(武満徹全集編集長)です。抜粋を引用します。

(19)60年に草月アートセンターの呼びかけで、作曲家集団というのができて、作曲家の個展第一回というのを僕がおしつけられたのね。三月が僕で、四月が武満。草月がほかにもいろいろなイベントの拠点なものですから、しょっちゅういろんなことで一緒にいました。翌年かな、その年かな、そこで僕が武満の仕事を手伝ったのが、羽仁進監督の映画『不良少年』です。

大原

『不良少年』の録音の最中に困ってしまって、それで林さんに指揮をお願いしたんですよね。棒振りに行ったんですか。

僕はそのころ信濃町に住んでいたんですが、突然、電話がかかってきて、「今、武満さんの音楽で『不良少年』というのをやっているんだけれども、ギタリストが三人でとても揃わないから棒振ってくれないか」と。最初はギターのソロだったはずなんです。武満はギターが好きだからね。当時はスタジオ録音で、僕たちが書いたようなものをやってくれるギタリストって一人しかいなかった。それは舟山幸一さんという人なんだけど、舟山さんいわく、一つ一つのコードは演奏可能だけど、これを続けてやるのは絶対不可能。

大原

一人じゃとても無理というわけですね。

映画録音のときは、結局三重奏になった。三人なものだから、こんどはなかなか揃わない(笑)。そこで指揮者がいるとなって、電話で起こされて行った。

大原

だれから電話があったんですか。

電話をかけてきたのは『不良少年』のプロダクションのマネジャーでしょう。それはきっと、武満が、林に頼めと、近所にいるんだからすぐ来れるだろうというような話だよね。それがきっかけで、その後、彼の映画(音楽)を何本か、録音のときに棒を振ったり何かしてということがありました。

 

 武満さん・浜坂さん・林さんの証言を合わせると次のようになります。

 

① 最初は、弦楽の暗い曲だった。羽仁監督の意見で、書き直しになった。

② ギターを使った明るい曲を作った。ソロ曲のつもりだった。

③ 草月会館(赤坂)で録音する時には、三重奏に編曲。

④ 担当するはずだった、三人のクラシックギタリストでは、うまく弾けなかった。

⑤ 浜坂さん(六本木)に依頼。あと二人を連れて、三人で録音に行く。(夜中)

⑥ 林光さん(信濃町)に指揮を依頼。(夜中)

⑦ 録音。林光指揮のギター三重奏( 浜坂福夫、秋山実、舟山幸一)

 

浜坂さんと舟山さんは、既に武満さんと顔見知りだったようです。

また、舟山さんの「演奏不可能」という意見ですが、ソロ曲の段階②か、録音の時⑦か、いつ言ったか不明です。

武満さんは、自分は指揮ができない、振ってもらうなら指揮者より作曲家の方が良い、と言っていたそうです。

 

夜中に人を集めていることから、時間がなかったものと思われます。

即対応できる演奏者と指揮者で、早く確実に仕上げたかったのでしょう。

録音時の三人は、ポップスのギタリストですが、演奏を完成させています。

門外漢が指揮者に助けられて何とか形にした、という演奏では、ないでしょう。

 

 

 

(2021/6/30追記)

映画音楽について 宇野一朗の証言

([映画音楽の]演奏の指揮ですが)

武満さんの場合は、だいたい作曲家が棒を振ってましてね。指揮専門の人より、作曲家が振るほうがよくわかっているからって言ってました。

武満徹を語る15の証言』小学館(2007年)より引用