江部賢一ファンクラブ(私設)

ギターの名編曲者、江部賢一さんの仕事を、記録します。

武満徹 不良少年⑤ 「夏の花」

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ギター映画音楽名曲集 1961

番外編で武満徹を取り上げています。

 

『ギター映画音楽名曲集』は浜坂福夫編著、国際楽譜出版社の発行(1961年)。

副題は「日本/外国における」。

 

映画『不良少年』主題曲「夏の花」が掲載されています(三重奏版)。

映画の公開は、昭和36年(1961年)3月29日。巻頭の言葉の日付は4月なので、初期の楽譜です。

 

武満さんの言葉と、浜坂さんの注があります。

 

「夏の花」

作曲者の言葉

曲の構造が簡単ですから、それ丈けに反って音を大切にして欲しいと思います。

 

ギターの為に書かれた、日本では珍しいオリジナルです。作曲者武満さんは非常にギターの研究を深くされて居り、タールレガを特に好きな由です。

音の一見簡単と思われる楽譜でも、これが一度演奏されると、非常に複雑であり、又、今迄の古曲、ローマンのギター曲に無かった、独特のユニークなものでいっぱいです。

作曲者の希望の如く、宝石の様な一音一音を大切に弾いて下さい。(後略)

 

付記として、第一ギター:浜坂福夫、第二ギター:秋山実、第三ギター:舟山幸一とあります。レコードは、キングレコード No.EB485。

 

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ショット社『武満徹:ギター重奏曲集』のサンプルページと比較したところ、ほぼ同じでした。一か所違うのは、2小節目の1st ギターが C で始まっていること。これは E の誤記と考えられます。 

 

林光さんの話に、「不良少年」はギターのソロだったはず、とありました。

元の楽譜があるかどうかは不明です。

単純に考えると、書いた楽譜がソロでは演奏困難だったため、音の構成を変えずに3つのパートに分けたのでは。

三重奏ですが、同時発音は6音までになっていることが、その理由です。

 

 

参考に、この曲集の収録曲を記しておきます。

 

夏の花 (武満徹) 『不良少年』より[三重奏]

危険な英雄 (芥川也寸志) 『危険な英雄』より[二重奏]

入江のたより (アルベニス) 『太陽の季節』より

特ダネを逃がすな!! (冨田勲) 『特ダネを逃がすな!!』より[二重奏]

オルフェの唄 (ボンファ) 『黒いオルフェ』より

死ぬ程愛して (ルスティケッリ) 『刑事』より

永遠の愛によせて (ショパン) 『愛情物語』より

いるかに乗った少年 (フリードホーファー) 『島の女』より

ジャニー・ギター (ヤング) 『大砂塵』より

太陽がいっぱい (ニーノ・ロータ) 『太陽がいっぱい』より

河は呼んでいる (ベアール) 『河は呼んでいる』より

殺し屋のテーマ (ボトキン) 『契約による殺人』より

皆殺しの歌 (メキシコ民謡) 『リオ・ブラボー』より

鉄道員  『鉄道員』より

イン・ザ・ムード (ガーランド) 『グレンミラー物語』より

旅情  『旅情』より

第三の男  『第三の男』より[二重奏]

セント・ルイス・ブルース  『セント・ルイス・ブルース』より

アナスタシア (ニューマン) 『追想』より

愛のロマンス  『禁じられた遊び』より

 

危険な英雄」(芥川也寸志)の注は次の通り。

『第三の男』が封切られて非常にその音楽が好評であった。直後にそれ以上の作曲、と云われた、芥川也寸志氏のギターの為のオリジナル作品です。映画全編を通して、2本のギターだけで演奏しました。第一ギター筆者・第2ギター舟山幸一氏。

 

 

巻頭の言葉を引用します。言葉遣いは、少し直しました。

此の曲集を演奏して下さる皆様へ

禁じられた遊び』『第三の男』等によって、ギターを主にした映画音楽が、世界中に一種の流行をもたらした、といっても過言ではないでしょう。

此の唯一個の、外見上非常に「シンプル」な楽器の持つ 、独特な魅力に、引っぱりこまれてしまった、数多くの作曲家が、ソロからトリオ位迄の、ギターだけでの作曲を色々試みて来ました。またこれからも、一度此のギターの魅力の「とりこ」になってしまった沢山の人によって、あく事なくギター音楽は追求されて行く事でしょう。

時を前後して、日本の若い作曲家のグループも、各々意欲的な作品を発表して来ましたが、一般的に余り知られていません。また、日本映画音楽の半ば宿命的なものの例にもれず、封切られて瞬時にして、もう忘れられてしまった、と云うのが残念ながら真実です。

今度、国際楽譜出版社によって「ギターに依る映画音楽名曲集」発行のお話(が)あった際に、編集の方々(と)色々相談して、許される限りにおいて、日本映画のものも、とりあげてみました。これからも、出来るだけ日本映画音楽から、後に残る作品をとりあげたいと思って居ります。

筆者

 

演奏上の諸点

オリジナルで、ギターソロのものは問題ありません。音楽的な点で、ギター演奏に向くものの中から数十曲このアルバムに集めました。 サブタイトルの、演奏会用、ということを常に考えながらアレンジしました。どの曲においても軽音楽的に、ということもその一つ。

また、イントロ、エンディング等にカデンツァソロを作り、曲にニュアンスをつけたり、メロディーを二度目三度目はフェイクしてジャズ的手法を使ったり(しました)。一歩今迄の単純なギターソロから、面白くて音楽的に前進したものを作るべく努力しました。此の行き方が、皆様の心の琴線に触れてくれたら、こんな嬉しいことはありません。(後略)

(昭和)36年(1961年)4月

浜坂福夫

 

 曲目を追加して、改訂版が出版されているようです。

 

 

武満徹 不良少年④(林光)

番外編で武満徹を取り上げています。「不良少年」について。

 

『現代ギター』2016年10月号「レパートリー充実講座 不良少年」(柴田健) には、サウンドトラックのライナーノートに、「林光指揮のギター三重奏(浜坂福夫、秋山実、舟山幸一)」と紹介されている、とあります。

 

武満徹全集』の書誌情報で、「林光指揮」が確認できました。

 

武満徹を語る15の証言』小学館(2007年)に、林光さんの証言があります。

聞き手は大原哲夫さん(武満徹全集編集長)です。抜粋を引用します。

(19)60年に草月アートセンターの呼びかけで、作曲家集団というのができて、作曲家の個展第一回というのを僕がおしつけられたのね。三月が僕で、四月が武満。草月がほかにもいろいろなイベントの拠点なものですから、しょっちゅういろんなことで一緒にいました。翌年かな、その年かな、そこで僕が武満の仕事を手伝ったのが、羽仁進監督の映画『不良少年』です。

大原

『不良少年』の録音の最中に困ってしまって、それで林さんに指揮をお願いしたんですよね。棒振りに行ったんですか。

僕はそのころ信濃町に住んでいたんですが、突然、電話がかかってきて、「今、武満さんの音楽で『不良少年』というのをやっているんだけれども、ギタリストが三人でとても揃わないから棒振ってくれないか」と。最初はギターのソロだったはずなんです。武満はギターが好きだからね。当時はスタジオ録音で、僕たちが書いたようなものをやってくれるギタリストって一人しかいなかった。それは舟山幸一さんという人なんだけど、舟山さんいわく、一つ一つのコードは演奏可能だけど、これを続けてやるのは絶対不可能。

大原

一人じゃとても無理というわけですね。

映画録音のときは、結局三重奏になった。三人なものだから、こんどはなかなか揃わない(笑)。そこで指揮者がいるとなって、電話で起こされて行った。

大原

だれから電話があったんですか。

電話をかけてきたのは『不良少年』のプロダクションのマネジャーでしょう。それはきっと、武満が、林に頼めと、近所にいるんだからすぐ来れるだろうというような話だよね。それがきっかけで、その後、彼の映画(音楽)を何本か、録音のときに棒を振ったり何かしてということがありました。

 

 武満さん・浜坂さん・林さんの証言を合わせると次のようになります。

 

① 最初は、弦楽の暗い曲だった。羽仁監督の意見で、書き直しになった。

② ギターを使った明るい曲を作った。ソロ曲のつもりだった。

③ 草月会館(赤坂)で録音する時には、三重奏に編曲。

④ 担当するはずだった、三人のクラシックギタリストでは、うまく弾けなかった。

⑤ 浜坂さん(六本木)に依頼。あと二人を連れて、三人で録音に行く。(夜中)

⑥ 林光さん(信濃町)に指揮を依頼。(夜中)

⑦ 録音。林光指揮のギター三重奏( 浜坂福夫、秋山実、舟山幸一)

 

浜坂さんと舟山さんは、既に武満さんと顔見知りだったようです。

また、舟山さんの「演奏不可能」という意見ですが、ソロ曲の段階②か、録音の時⑦か、いつ言ったか不明です。

武満さんは、自分は指揮ができない、振ってもらうなら指揮者より作曲家の方が良い、と言っていたそうです。

 

夜中に人を集めていることから、時間がなかったものと思われます。

即対応できる演奏者と指揮者で、早く確実に仕上げたかったのでしょう。

録音時の三人は、ポップスのギタリストですが、演奏を完成させています。

門外漢が指揮者に助けられて何とか形にした、という演奏では、ないでしょう。

 

 

 

(2021/6/30追記)

映画音楽について 宇野一朗の証言

([映画音楽の]演奏の指揮ですが)

武満さんの場合は、だいたい作曲家が棒を振ってましてね。指揮専門の人より、作曲家が振るほうがよくわかっているからって言ってました。

武満徹を語る15の証言』小学館(2007年)より引用

 

 

武満徹 不良少年③(浜坂福夫)

番外編で武満徹を取り上げています。「不良少年」について。

 

『現代ギター』誌の関連記事としては、1999年4月号「濱田滋郎対談 浜坂福夫」があります。

 

映画に使われた録音(三重奏版)の演奏者は、浜坂福夫、秋山実、舟山幸一の三名。

浜坂福夫さんは、2004年7月に80歳で亡くなりました。貴重な証言です。

(抜粋を引用) 

濱田 映画の仕事も いろいろなさったんですね。

浜坂 

そうそう、武満徹さんともやりました。『不良少年』という映画の音楽を。このときは、武満さんが真夜中の12時頃に電話をかけてきたんです。ぼくはその頃、六本木に住んでいましてね。電話口に出ると「浜ちゃん、ぼく今、草月会館で映画の音楽録(と)ってるんだけど、ギターがどうもうまくいかなくてね、今までかかって1本も録れないんだよ。ギタリストをあと2人連れて3人で一緒に来てくれる?」と、武満さんが言うんですね。そこで、浜坂教室のギタリストを連れて行きました。

スタジオに入ってらしたのは クラシックの世界で高名な3人の方たちだったんですが、うまく弾けなかったらしい。

 

濱田 クラシックギタリストはどうしても ふだん個人作業に慣れてますから、合わせることには弱い面があるんでしょうね。以前は特にそれが強かった⋯⋯。

浜坂

そう、ギターの1台が3連音だったり、リズムがほかと違うと、もうダメなんですね。しかも武満さんのは、3つのギターがそれぞれ別なリズムを弾く、とても精密なものでしたからね。あとでそれをデュオの楽譜に直したものも出ましたが。

 

濱田 そう、近頃よくデュオで弾かれますね。

  

ポップスの現場で長く活躍されていたため、ライヴ演奏に、特に思い入れがあったようです。

 

(ポピュラー曲をプログラムにまぜて弾くクラシックギター演奏家もいるが)

浜坂

たとえば、ある曲を3コーラス弾くとして、それが全部同じアレンジを、ただ譜面どおりに繰り返して終わり。悲しいんですよね。もっといろんなことを勉強してほしいです。

濱田 たしかに、クラシック・ギタリストの大部分はインプロヴィゼーション(即興)も苦手ですしね。

浜坂

(中略)(ポピュラー曲を弾くなら)楽譜どおりの繰り返しではなく、聴いている者を楽しませる演奏をしてくれなくっちゃ。

(中略)

浜坂

楽譜どおりにしか弾けないのであれば、武満さんのビートルズみたいな、良いアレンジをせめて使っていただきたい。ギターの味わいを生かした、たとえば新しいコードワークを取り入れたり、そうした工夫もしないで、どうしてコンサートで人に聴かせられるんでしょう。(中略)ぼくはギターが大好きですから言うんです。

 

 

記事の中で、「湯の町エレジー」や「悲しい酒」 の演奏をしたという話がありました。

森繫久彌さんの専属ギタリストも、されていたようです。

ポップスを編曲した曲集も、何冊か確認できました。

 

『アルメイダのロマンチックギター』(全音 1967年) の解説も書かれています(2021/6/12追記)

 

浜坂 福夫(ハマサカ フクオ)


職業 ギタリスト、音楽プロデューサー

専門 バンジョー、作曲、編曲

肩書 ハマ・プロモーション代表、日本音楽家ユニオン初代代表

生年月日 1924年大正13年)5月2日

出生地 岩手県久慈市

経歴 独学でギターやバンジョーの演奏、作・編曲を習得し、ギタリストとなる。

NHK交響楽団との共演、二葉あき子、淡谷のり子などと舞台や放送、レコーディングで共演。また映画「ねむの木の詩」、「SL100年の歴史」「わんぱく漂流記」などドキュメントやドラマの作曲も手がけた。

演奏家協会、芸団協など業界組織のリーダー役を長年務め、昭和59年には日本音楽家ユニオンの初代代表に就任、演奏家の生活と権利を守るために尽力。日本演奏家協会委員長も務めた。著書に「はじめて弾くギター」ほか。

所属団体 日本音楽家ユニオン日本芸能実演家団体協議会

受賞 芸能功労者表彰(第27回)[平成14年]

没年月日 2004年(平成16年)7月31日

伝記 『したたかな調べ』浜坂福夫 著(発行元 東京新聞出版局 1988年発行)

出典 日外アソシエーツ『新撰 芸能人物事典 明治~平成』(2010年刊)

 

元の記事で、聴き手をされていた濱田滋郎さんは、今年の3月に亡くなりました。

コンサートも録音も、膨大な量を聴かれていたようです。『現代ギター』を読む度に、濱田さんの博聞強記に感心させられました。ご冥福をお祈りします。

 

濱田 滋郎(はまだ じろう、1935年 - 2021年3月21日)は、日本の音楽評論家、スペイン文化研究家。日本フラメンコ協会会長、スペイン音楽こだまの会主宰。父親は童話作家の濱田広介である。東京都出身。

ウィキペディアより引用)

 

 

 浜坂さんと舟山幸一さんは、二重奏をしている録音があるようです(『殺し屋のテーマ』日本エンゼルレコード)。

舟山さんの編曲は、『現代ギター』に掲載されたことがあります。「ロス・インディオス・タバハラス」の曲集も編集しています。

秋山実さんは、ヴィンセント・ロドリゲス、アンリ・ラモーの別名で、ギターのレコードを出しています。

舟山さんと秋山さんは「ビート・フィーチャーズ」というグループを組んでいたようです。

舟山幸一とビート・フィーチャーズ 」

 

リーダーの舟山幸一は、浜坂福夫と伊藤翁介の両氏に師事してギター奏法と音楽理論を学びました。小山四雄マンドリン・オーケストラでは第一奏者として活躍し、各レコード会社からはギター独奏のレコードも発売しました。

その後はフリーになり、1959年にはハイドン音楽祭参加、1960年には現代音楽祭で前衛音楽の大御所、ジョン・ケージと共演して注目されました。正確でバランスのとれたテクニックの持ち主で、澄んだ冷たさをたたえた音色には知的精彩があります。

秋山実、加藤稔、北村澄など、いずれもギター界の著名な指導者に師事したベテランです。もともとクラシック畑の出身なのでテクニックも安定しており、ポピュラー、サーフィン音楽などパンチのきいた音楽では本領を発揮します。

 

ベンチャーズエスケープ」(1966)のカバー

カエル純(@kaerujun)/2018年01月30日 - Twilog

 

youtu.be

 

『エレキヒット ステレオベスト18』(ソノシート)にもプロフィールが出ています。

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武満徹 「不良少年」② (CD『武満徹の世界』より)

 

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武満徹の世界』CD

番外編で武満徹を取り上げています。

 

武満徹の世界 オリジナル・サウンドトラック』CDのライナーノートに、インタビューが掲載されています。

 

内容は、立花隆さんの『武満徹・音楽創造への旅』(2016年)と同じです。立花さんのインタビュー(1992年頃)より制作時に近いため、語り口が生き生きとしています。

 

武満徹の世界』の原盤は、『日本の映画音楽/武満徹の世界』LP(東宝レコード 1979年)。

『不良少年』は、昭和36年(1961年)3月29日封切、岩波映画

 

 

武満徹の世界 オリジナル・サウンドトラック』CD(ポリスター 1999年)

ライナーノートより(レコード発売当時の原稿を使用)

インタビュー

(映画音楽を一つの音楽ジャンルとして意識されたのはいつからですか)

 

『不良少年』からです。それまではどういう風に書いていいのかよく解(わか)らなかった。それまで映画音楽的なステロタイプ(固定概念)はいつも頭にあって、やっぱり、それに近く書こうということはあった。

羽仁さんと仕事をして、はじめて、そういうことから離れて書けるようになり、映画音楽が非常に独自な音楽の世界だと思うようになった。とても、いい勉強になったわけです。

 

あの映画は、非常に変わった撮り方をしてて、ほとんどスクリプト(台本)なしで始めた⋯⋯久里浜の少年院にずっとロケーションしたんだけどスタッフが近所に泊り込んで⋯⋯羽仁さんは毎日、少年院に行って、いろんな少年たちと話したりしているうちに、だんだん出来てきて⋯⋯だから、ぼくも、しょっちゅう撮影現場に立ち会ったわけなんです。

 

 あれは事実ではなく、フィクションの世界だけど、ドキュメンタルな撮り方で、編集もまったく自由なやり方でやったんです。そうしたら、最初考えてたテーマと違うことになっちゃったりね。あとから台詞をはめ変えたりした。

 

音楽を書いて録音したら、これが羽仁監督の気に入らなかった。

 

ぼくのほうが内容に対して観念的になってて、暗く、重い音楽を書いちゃったんですよ。そしたら、音楽を採り終ってミキシングに入る前にスタッフ全員集めてね、土本さんという助監督さん⋯⋯後で、水俣の映画を撮った人ですけど⋯⋯が進行役になって、一つ一つ画に音楽を合わせて、賛成か反対かってやったんです。

ぼくは、もう、ものすごく怒ったわけね。なんたることだって。こんなところにまで、民主主義を持ち込むのは良くないって⋯。

スタッフの人の中には、ぼくの音楽に賛成してくれる人がいたけど、羽仁さんは絶対手を挙げないんですね。すると、一票反対があるから、これは保留しましょうってことになる。

 

ぼくは、あなたみたいなわがままなおぼっちゃん監督とは付き合えないからって、スタジオを飛び出してしまった。そしたら、それまでものすごくいい天気だったのが一転俄にかき曇って、豪雨になったんですよ。かっこよく飛び出したんだけど、外へ出られないわけ。

そしたら、土本さんがきて、今日は新宿に宿を取りましたんで、羽仁さんと枕を並べて、私が真ん中に入って寝ますからって⋯⋯。まあ、土本さんて方はとてもいい人でねえ。それで一晩、ずい分話をしましたよ。

それで羽仁さんの演出の意図っていうのがよく解って、7~8ロールは書き直しました。ずい分、間を置いて採り直して、出来上ったのを見たら、やっぱり、羽仁さんの云ってたことの方が正しかったことがよく解りました。

それからですね、映画っていうのが面白いなと思うようになったのは。

 

このCDに収録されているのは、「〇と△のうた」です。

 

『不良少年』の「〇と△のうた」 について

ぼくは、映画に、よく歌を入れることがあるんです。この歌は、監督の注文ではなく、毎日、ロケ地の久里浜の少年院へ通っている時にね、ま、少年が働いたりしている時に鼻唄でも歌わせようと思ってね、電車の中で歌詞を考え、作曲して、その日に歌わせた。ひところは流行って有線放送などで歌われたもんです。

(1979年5月)

 

 

武満徹 不良少年①

番外編で武満徹を取り上げています。「不良少年」について。

 

ギター曲として、よく演奏される「不良少年」ですが、もとは映画音楽です。

 

『不良少年』

監督・脚本/羽仁進、監督補/土本典昭、音楽/武満徹

実際に非行経験のある素人の少年たちを使い、東京の繁華街や鑑別所や少年院での姿を描いた劇映画第1作。ドキュメンタリーの手法を用いた新たな作風は、多くの映画人に衝撃を与え、同年、黒澤明の『用心棒』や木下惠介の『永遠の人』などを抑えてキネマ旬報ベストテン第1位となった。羽仁の名を不動にした代表作。

1960年/岩波映画製作所/白黒/89分

“映画の天才”羽仁進映画祭 (cinenouveau.com)

この資料では、1960年となっていますが、公開されたのは1961年のようです。

『SONGS』の「〇と△のうた」 も、この映画の挿入歌です。

 

 

現代ギター社の解説は、次の通り。

「不良少年」は、映画『不良少年』(1961年、監督:羽仁 進)の主題曲。

1969年に「夏の花」というタイトルで演奏会作品としてまとめられたが、1987年演奏会初演(佐藤紀雄、小川和隆、渡部正行)の際に、武満の意向により「不良少年」に改題。

『武満 徹:ギター重奏曲集』

不良少年(3G)、素晴らしい悪女(3G)、ヒロシマという名の少年(2G)

 

www.gendaiguitar.com

 

 

武満徹・音楽創造への旅』(立花隆 文藝春秋 2016年)にも、「不良少年」に関する記述があります。演奏ではなく、監督との意見の違いについてのものです。

 抜粋を引用します。

 

立花 「不良少年」は、ギターのつま弾きがすごく印象的な音楽でしたね。

武満

あれはまた大変だったんです。最初に書いた音楽は別にあったんです。それをみんなボツにしてしまった。(中略)

(スタッフ全員で票決を取ったが、羽仁監督だけ反対で保留になった。)

結局、全部駄目で『書き直してください。この音楽は、私の映画が意図していることとまるで違う』というわけです。それでぼくもカッとなって、『あんたみたいな自由学園出のわがままなおぼっちゃんとはもう一緒に仕事したくないから、やめる』といって、大ゲンカになった。そうしたら(土本)助監督が、まあまあといって間に入って、(中略)『羽仁さんという人はああいう人なんだから、まあそう怒らないでください。今日は新宿のトトヤでひと晩飲んで、ゆっくり話をしましょう』といって、三人でその日は飲み明かして、最後どっかの旅館かなんかで川の字になって寝て、いろんな話をしたわけです。(中略)

 

あの映画は、よく知られているように、福山の少年院で全部ロケして作った、フィクションとはいうけど、半分ドキュメンタリーみたいな作品です。それにぼくは、弦楽を使って非常に暗い音楽をつけたわけです。(全体としては暗い話なので)その暗さを基調にして音楽をつけた。

 

しかし羽仁さんにいわせると(中略)映画は、全体の基調で(音楽を)つけてはいけない。シーンでつけるもんだ。そして、一つ一つのシーンでは、不良少年なんてみんな明るくやってるんだから、もっとノホホンとした音楽が欲しいというわけです。それはぼくもなるほどなと思った。それで書き直したんです。

 

前に書いた音楽と、書き直した音楽を聞きくらべてみたら、これはもう完全に羽仁さんのほうが正しかった。書き直したほうの音楽は、ふだんの自分からは、全然出てこないような音楽なんです。それは、羽仁さんというぼくがそれまで全く知らなかったタイプの個性とぼくがぶつかることで、ぼくから引き出された、自分でも知らなかった一面なんですね。こういうことがあるから映画の仕事は面白いんです。

 

 

「不良少年」サウンドトラック 

youtu.be

 

(2021/6/23追記)

何度も引用した『武満徹・音楽創造への旅』ですが、著者の立花隆さんが亡くなったことが公表されました。4月30日に80歳で亡くなったそうです。

 

ジャーナリスト・作家 立花隆さん死去 幅広いテーマ取材 | おくやみ | NHKニュース

 

ポップス・ギター・デュエット(2012)江部賢一さん担当分(後半)

ポップス・ギター・デュエット(2012年)

『ポップス・ギター・デュエット(2012年)』(2020/10/14)全曲の動画を紹介します。

えべけんさんと竹内永和さんの共著です。

曲数が多いので、4回に分けます。今回は、江部さん編曲の後半。記事は再録です。

 

『ポップス・ギター・デュエット』は、ドレミ楽譜出版社の発行(2012年6月30日)。副題は「練習者の併用曲集」です。

61曲、127ページ。竹内永和さんとの共著です。

 

見開きで1st(メロディー)譜、2nd(伴奏)譜が並んでいます。初中級用です。

難易度順になっていて、1st は基本的に単音です。

単純な曲集では、ありません。充実した編曲が多い好著です。

 

えべけんさんの担当は29曲

 

 

(前半)

02 聖者の行進 [二重奏・C]
04 夢みる人 [二重奏・C]
10 グリーンスリーブス [二重奏・Dm]
12 別れの曲 Etude op.10 no.3 [二重奏・C]
15 いつか王子さまが [二重奏・C]
20 シェルブールの雨傘 [二重奏・Am]
26 第三の男 [二重奏・A]
28 アマポーラ [二重奏・G]
33 追憶 [二重奏・C]
34 アンチェインド・メロディー [二重奏・G]
35 ロンドンデリー・エア [二重奏・C]
37 虹のかなたに(虹の彼方に)[二重奏・C]
39 チム・チム・チェリー [二重奏・Am]
40 星に願いを [二重奏・C]
42 雨にぬれても [二重奏・C]

(後半)
43 マリア・エレナ [二重奏・G]
46 煙が目にしみる [二重奏・D]
47 となりのトトロ [二重奏・D]
49 エル・チョクロ [二重奏・Dm]
50 イエスタデイ・ワンス・モア [二重奏・G]
51 エストレリータ [二重奏・C]
52 幸せの黄色いリボン [二重奏・C]
54 ダッタン人の踊り [二重奏・C]
55 G線上のアリア [二重奏・D]
56 パリの空の下 [二重奏・Dm]
57 スターダスト [二重奏・C]
58 ジョージア・オン・マイ・マインド [二重奏・C]
59 メディテイション [二重奏・C]
60 イパネマの娘 [二重奏・F]

(数字は通し番号)

 

 

43 「マリア・エレナ」 [二重奏・G]

youtu.be

46 「煙が目にしみる」 [二重奏・D]

youtu.be

47 「となりのトトロ」 [二重奏・D]

youtu.be

49 「エル・チョクロ」 [二重奏・Dm]

youtu.be

50 「イエスタデイ・ワンス・モア」 [二重奏・G]

youtu.be

51 「エストレリータ」 [二重奏・C]

youtu.be

52 「幸せの黄色いリボン」 [二重奏・C]

youtu.be

54 「ダッタン人の踊り」 [二重奏・C]

youtu.be

55 「G線上のアリア」 [二重奏・D]

youtu.be

56 「パリの空の下」 [二重奏・Dm]

youtu.be

57 「スターダスト」 [二重奏・C]

youtu.be

58 「ジョージア・オン・マイ・マインド」 [二重奏・C]

youtu.be

59 「メディテイション」 [二重奏・C]

youtu.be

60 「イパネマの娘」 [二重奏・F]

youtu.be

 

 

演奏を聴いて、改めて編曲の良さに気付かされました。復刊してほしいものです。

全曲の動画を制作された、あんとん様、引用させて頂き有難うございました。

 

 

ポップス・ギター・デュエット(2012)江部賢一さん担当分(前半)

ポップス・ギター・デュエット(2012年)

『ポップス・ギター・デュエット(2012年)』(2020/10/14)全曲の動画を紹介します。

えべけんさんと竹内永和さんの共著です。

曲数が多いので、4回に分けます。今回は、江部さん編曲の前半。記事は再録です。

 

『ポップス・ギター・デュエット』は、ドレミ楽譜出版社の発行(2012年6月30日)。副題は「練習者の併用曲集」です。

61曲、127ページ。竹内永和さんとの共著です。

 

見開きで1st(メロディー)譜、2nd(伴奏)譜が並んでいます。初中級用です。

難易度順になっていて、1st は基本的に単音です。

単純な曲集では、ありません。充実した編曲が多い好著です。

 

えべけんさんの担当は29曲。

 

 

(前半)

02 聖者の行進 [二重奏・C]
04 夢みる人 [二重奏・C]
10 グリーンスリーブス [二重奏・Dm]
12 別れの曲 Etude op.10 no.3 [二重奏・C]
15 いつか王子さまが [二重奏・C]
20 シェルブールの雨傘 [二重奏・Am]
26 第三の男 [二重奏・A]
28 アマポーラ [二重奏・G]
33 追憶 [二重奏・C]
34 アンチェインド・メロディー [二重奏・G]
35 ロンドンデリー・エア [二重奏・C]
37 虹のかなたに(虹の彼方に)[二重奏・C]
39 チム・チム・チェリー [二重奏・Am]
40 星に願いを [二重奏・C]
42 雨にぬれても [二重奏・C]

(後半)
43 マリア・エレナ [二重奏・G]
46 煙が目にしみる [二重奏・D]
47 となりのトトロ [二重奏・D]
49 エル・チョクロ [二重奏・Dm]
50 イエスタデイ・ワンス・モア [二重奏・G]
51 エストレリータ [二重奏・C]
52 幸せの黄色いリボン [二重奏・C]
54 ダッタン人の踊り [二重奏・C]
55 G線上のアリア [二重奏・D]
56 パリの空の下 [二重奏・Dm]
57 スターダスト [二重奏・C]
58 ジョージア・オン・マイ・マインド [二重奏・C]
59 メディテイション [二重奏・C]
60 イパネマの娘 [二重奏・F]

(数字は通し番号)

 

 

02 「聖者の行進」 [二重奏・C]

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04 「夢みる人」 [二重奏・C]

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10 「グリーンスリーブス」 [二重奏・Dm]

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12 「別れの曲 Etude op.10 no.3」 [二重奏・C]

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15 「いつか王子さまが」 [二重奏・C]

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20 「シェルブールの雨傘」 [二重奏・Am]

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26 「第三の男」 [二重奏・A]

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28 「アマポーラ」 [二重奏・G]

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33 「追憶」 [二重奏・C]

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34 「アンチェインド・メロディー」 [二重奏・G]

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35 「ロンドンデリー・エア」 [二重奏・C]

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37 「虹のかなたに(虹の彼方に)」[二重奏・C]

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39 「チム・チム・チェリー」 [二重奏・Am]

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40 「星に願いを」 [二重奏・C]

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42 「雨にぬれても」 [二重奏・C]

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